うみともコラム#07

海の中に、まるで「立ったまま眠る」ようなクジラがいます。

そのクジラの名前は、マッコウクジラ。

世界最大のハクジラとして知られるマッコウクジラは、

深い海へ潜ってイカなどを探す一方で、

海面近くでは不思議な姿勢で休むことがあります。

頭を下に向け、体をほとんど動かさず、

海の中に静かに浮かぶ。

その姿は、まるで海の中で眠っているようです。


そして最近、この「眠り」に関する、

とても不思議なことが分かりました。

マッコウクジラは、

休んでいるときに「泡」を放出していたのです。


では、なぜなのでしょうか?


海の中で「じっとしている」のは、意外と難しい

陸の上なら、眠るときにその場にじっとしていることは、

それほど難しくありません。

でも、海の中では事情が違います。

体には「浮力」が働いているからです


浮力とは、簡単にいうと、

水の中にあるものを上へ押し上げる力のこと。

マッコウクジラは、

もともと海面近くでは浮きやすい体をしています。

そのため、何もしなければ少しずつ海面へ上がってしまいます。

けれど、マッコウクジラが休んでいるのは、海面より少し下。

波に揺らされすぎないようにしながら、

深く潜るためのエネルギーも使わず、静かに休むためには、

「浮きすぎないこと」

が大切になります。

そこで登場するのが「泡」

マッコウクジラは、呼吸をするために海面まで上がり、

空気を取り込んでから潜ります。

その空気は、潜っている間に体の中に残っています。

そして、浅いところでゆっくり上昇すると、

周囲の水圧が低くなることで、体内のガスは少しずつ膨らんでいきます。

すると、クジラはさらに浮きやすくなってしまいます。

そこで研究者たちが注目したのが、

「泡」でした。


2026年7月に発表された研究では、

マッコウクジラに吸盤式の小さなタグを取り付け、

音や3次元の動きを記録。

休息中のクジラから、はっきりとした泡の音が記録されました。

さらに、その動きや体の密度、

水の抵抗、

体内のガス量などを使って

コンピューターシミュレーションを行ったところ、

泡を放出することで、マッコウクジラの「浮きすぎ」を抑えられる

ことが示されました。(セント・アンドリューズ大学ニュース)


つまり、

泡を出すことが、海の中で静かに休むための

「浮力調整」になっている可能性があるのです。

「眠りながら」浮き方を調整している?

ここが、この研究の特に面白いところです。

マッコウクジラは、休息中にはほとんど動かず、海の中で静かに漂っています。

それなのに、その状態で泡を放出し、

自分の浮き方を細かく調整している可能性があります。

研究を紹介した英セント・アンドルーズ大学によると、

マッコウクジラは休息中にも、

海面下でほぼ中性浮力になるようにガスを放出していると考えられています。

(セント・アンドリューズ大学ニュース)

私たちからすると、

「眠っているのに、そんなことまでしているの?」

と思ってしまいますよね。

でも、海の中で暮らすマッコウクジラにとっては、

「眠ること」も海に合わせた生き方のひとつなのかもしれません。


ただし、泡の役割はまだ完全には分かっていない

ここで、ひとつ大切なことがあります。

今回の研究によって、泡が浮力調整に役立つことは支持されました。

一方で、研究者たちは、泡の放出には別の理由も関係している可能性があると考えています。

たとえば、体内で生じた二酸化炭素や窒素などのガスを外へ出す

「ガス交換」と関係している可能性です。


つまり、

「マッコウクジラは眠るためだけに泡を吐いている」

と、今の段階で断定することはできません。


海の生き物には、まだ私たちが知らないことがたくさんあります。

海の中で眠るということ

マッコウクジラが海の中で休む姿は、とても静かです。

頭を下にして、

ほとんど動かず、

海面の少し下を漂う。

そして、ときどき泡を放つ。

その小さな泡が、自分の体を海の中のちょうどいい場所にとどめることに

役立っているのかもしれません。


陸で暮らす私たちにとっては、

「眠る」ということは、とても当たり前のことです。

でも海の中では、

眠ることさえ、海に合わせた工夫が必要なのかもしれません。


今日もどこかの海で、マッコウクジラが静かに海の中へ沈み、

そして泡をひとつ、またひとつと放ちながら、

海の中の夜を過ごしているのかもしれません。


海には、まだまだ私たちの知らない「生き方」があります。

そのひとつを知るだけで、

いつもの海が、少し違って見えてくるかもしれません。

umi×tomo

うみとなかよく。 いまより、ほんのすこしだけ。

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